京都の寿司と言えば、鯖寿司や鱧の箱寿司、ばら寿司などが思い浮かぶ。すぐ目の前が豊かな海で新鮮な魚が手に入った江戸とは異なり、海が遠かった京都では、塩と酢で締めた寿司や具材に火を通して味を付けた寿司の文化が発達した。なかでも鯖寿司は、京都の寿司の王様である。
寿司の歴史を辿ると、長らく日本人は魚を発酵させたなれ寿司を食べていた。京都でもなれ寿司を食べていた。鯖もなれ寿司の形で食べていたのだろう。なれ寿司の文化は今も全国に残っており、京都府内にも残っている。現在の京都で食べているような形の寿司が誕生したのは江戸時代で、鯖寿司が誕生したのも江戸時代のようである。家庭や地域で主にハレの日に食べられていた鯖寿司を、専門的に作り始めたのは天明元年(1781年)創業の名店「いづう」である。
京の鯖寿司を語る上で欠かすことができないのが、鯖街道だ。若狭湾で獲れた鯖を、小浜から京まで運んだ街道である。
鯖街道は複数あったと言われているが、メインとなったのは若狭街道である。古代より京へ海産物を運んでいた小浜周辺には「京は遠ても十八里」という言葉があるが、起点の小浜から終点の出町(京の七口の大原口)までおよそ80キロの道のりを、鯖を負って歩いて運んだ。鯖は傷みが速いので塩をして鯖街道を歩いて運ぶと、二日から三日の行程でちょうどいい塩加減になった。この塩鯖を棒寿司にしたのが鯖寿司である。賀茂川にかかる葵橋の西の袂に鯖街道口の石碑があり、出町桝形商店街の入口付近の歩道にも鯖街道の表示板が嵌め込まれている。
あまり青魚を食べない京都人が、鯖だけは別格として愛してきた。京都では葵祭や祇園祭に鯖寿司を作るが、一年を通じて鯖寿司やきずし(しめさば)を家庭でもよく作る。魚屋やマーケットにも鯖寿司やきずしを置いている。そして京都の寿司屋や日本料理店には、高級なものから庶民的なものまで、それぞれの店の味と個性を持った鯖寿司の名品逸品がひしめき合っている状態だ。鯖寿司はまさに京都人の代表的なソウルフードなのである。鯖街道に接する美山や久多などのようにハレの日の料理として鯖のなれ寿司を食べるところもあるし、また丹後には鯖のそぼろを使ったばら寿司や焼き鯖寿司もある。これらもまた京都の鯖寿司と言えるだろう。
それでは、京の鯖寿司の名店を厳選してご紹介しよう。
あんじ烏丸六角店 |
六角堂頂法寺の南側にある漁港直送海鮮酒場のあんじのさば寿司1本2000円。脂の乗った鯖を、漁港直送を謳うだけあり鮮度を重視してそれほど締めずに、酸っぱくない仕上がりになっている。たっぷり10切れあり、2、3人で楽しめる。(大) |
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さか井 |
高倉錦下がるにある昭和28年創業の有名寿司屋の鯖寿司。1本買いで3000円から、写真は3500円のもの。上等な鯖をあっさりと絶妙の加減で締めてある。押し寿司風ではなく、酢飯をふわりと少な目に詰めてあるのが特徴。(大) |
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菊乃井 |
高島屋の地下食料品売場の一角にあるテイクアウトコーナー。いづう、重兵衛、花折の鯖寿司と共に並ぶ菊乃井の鯖寿し4切れ1080円。高台寺本店ではなく木屋町四条の露庵製で、高島屋では半量で気軽に買える。穴子寿司も4切れ1080円。(大) |
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さいき家 |
新大宮商店街にある仕出し料理のさば寿しだし巻き弁当1296円。鯖寿司も美味しいが、スペシャリテは厚焼きで旨味のある出汁巻だ。前日までに予約が必要だが、伊勢丹などのデパートの催し会場で見付けて買うこともできる。(相) |
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祇園にしむら |
祇園の料亭が出す変わり鯖寿司、八坂の雪3780円。千枚漬け発祥の「大藤」の千枚漬を雪に見立てた美しい鯖寿司。漬け物を活かした酢と塩の加減が絶妙。10月〜3月限定で、それ以外は白板昆布を乗せた鯖寿司になる。前日までに要予約。(大) |
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奥満笑屋 |
堺町二条の天明元年創業のキンシ正宗の創業地に堀野記念館がある。同じ建物にある居酒屋が出す鯖寿司1500円。さっぱりとしたばってら風の鯖寿司で、軽くて美味しい。店内では1切150円でキンシ正宗の酒や地ビールと頂ける。(大) |
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和泉弥 |
六条室町東入るにある安政5年創業の老舗仕出し屋のばってら570円。地元や本願寺関係の注文による仕出しがメインだが、店頭でも持ち帰り用に1000円以下で伝統的な上方寿司や弁当を販売している。良心価格で、安定した美味しさがある。(大) |
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SABAR京都烏丸店 |
高辻新町にある大阪の鯖料理屋の京都店。写真はテイクアウトの松前風とろさば棒寿司ハーフ1131円と焼さば寿司ハーフ648円。とろさば棒寿司は京風のものよりあっさりしているが、鯖の癖がなくて食べやすい。店内に鯖神社が鎮座する。(大) |
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凡愚 |
西舞鶴の真ん中にあるカジュアルな割烹が出す焼き鯖寿司1000円。ほぐした焼き鯖を箱寿司にしたタイプのもので、ガリとゴマが挟んである。脂が乗り、塩味もちょうどよく、厚めの8切れとボリュームもあって、これで1000円は安い。(相) |
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いさみ寿司 |
烏丸御池からすぐにある気軽に利用できる大衆的寿司屋の鯖姿寿司、半分1750円。和菓子のような京風の鯖寿司ではなく、ご飯を堅く握り、塩と酢をしっかりきかせて、日本酒の香りがする、野趣のある鯖寿司で、これはこれで美味い。(相) |
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二條 葵月 |
市役所からほど近い二条通にある寿司屋の炙りさば寿し1本2500円。脂ののった上等な鯖を使っているが、炙ることによって脂の旨みが際立つ。鯖とシャリの間にガリだけではなくザーサイが挟まれていて、面白いアクセントになっている。(相) |
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八瀬大岩 出町店 |
八瀬の京料理店が、鯖街道の終点の出町に出しているテイクアウト専門の寿司店の鯖寿司、半分1500円。脂ののった鯖を使い、酸っぱいぐらいに酢がきいている。色々な寿司を気軽に買え、利用しやすい。銀閣寺・岩倉にも同様の店舗がある。(大) |
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いづ源 |
高倉綾小路にある大正創業の京寿司の店。伝統的な箱寿司数種と巻寿司、それに鯖寿司を二切れ盛り込んだ、その名も京寿司1400円。箱や巻もそうだが、薄味であっさりした上品な鯖寿司。通し営業で値段も安く、京寿司が気軽に楽しめる一軒。(相) |
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千登利亭 |
創業明治32年の祇園にある名店の、京寿司の伝統を伝える現代の名工が作る鯖寿司6切1980円。やや小ぶりな鯖寿司はしっかり締めてあり、特に京都の鯖寿司では塩が強いのが特徴で、旨みとともにきりっとした味に仕上がっている。(大) |
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うを亀本店 |
国道9号線沿いの園部郵便局隣りにある地元で人気の割烹料理店のサバ棒寿司大3150円、中2625円。上質の鯖を使い、白板昆布が載っている。酢は強くなく、甘めな味付け。ご飯の量がしっかりあり、食べ応えがある。(大) |
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醪音六角店 |
伏見の英勲の蔵元、齊藤酒造直営の居酒屋が作る焼き鯖寿司。身の厚い旨み十分の鯖を使い、皮目は焼いていない生鯖寿司のように見える焼き方が特徴。3貫700円、1本1800円。焼き鯖寿司はランチの六角御膳やチョイ呑みセットにも付く。(大) |
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朝日屋 |
京阪八幡市駅と男山ケーブル乗り場前にある創業百年以上の料理屋。名物鯖の棒寿司は脂の乗り切った鯖を選び、それほど強くしめず、鯖本来の美味さを引き出している。1本2980円、3分の2の小2100円。店内では3貫980円で頂ける。(相) |
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まとゐ鮨 |
祇園にある昭和13年創業の江戸前にぎりと京ずしの両方を出す寿司屋のさば寿司1本2000円、2分の1本1000円。塩気は薄めで、あっさりとした軽い味わい。格式張らない雰囲気で入りやすい店で、他の寿司も美味しい。(大) |
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まんざら本店 |
河原町夷川上るにある、京都市内に10店舗ほど展開する和食屋の本店。本店の名物あぶり鯖寿しは1本8切れで1800円。皮目を炙り、中はレアで、しっかり京の鯖寿司らしさも残している。挟んだ青紫蘇と柴漬けがアクセントになっている。(大) |
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末廣 |
天保年間創業の老舗寿司屋のさばずし一人前1850円。酢は強くなく、米のほのかに発酵した甘さと鯖の脂の甘さが絶妙な加減で、大変美味しい。店で頂くと、皮のある部分とない部分を適当に配分して切込みが入っているのが特徴。(大) |
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京寿司 大善 |
丸太町御前にある関西寿司店が出す鯖姿寿し、半分6切れで1575円。身は適度に厚く、締めは強くないが、生の感じはなく、ちょうどいい味だ。堅い昆布が巻いてあり、これを外して頂く。ご飯の量が多いので、半分で十分ボリュームがある。(大) |
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畠中商店 |
錦市場の魚屋が出す鯖寿司。酢が十分にきいた、甘みの強い味付けが特徴。鯖の厚みはないが、白板昆布がのり、ご飯とのバランスが絶妙に仕上がっている。形は洗練されていないが、一本1800円という廉価で京の一流の味を頂ける穴場的一軒。(大) |
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祢ざめ家 |
創業天正20年(1592)。伏見稲荷の参道にある、太閤秀吉から名前を賜ったという由来を持つ老舗。雀の焼き鳥が有名だが、鯖寿司が美味いことでも知られる。ご飯が少々強いことがあるが、鯖の締め方は非常にいい。場所柄、外せない稲荷寿司も入ったすし三種盛で楽しむといいだろう。(相) |
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きくもと伏見店 |
祇園のきくもとと共に、宇治黄檗にあったきくもとの暖簾を受け継ぐ一軒。平成21年に六地蔵から現在地に移転。特製昆布巻き鯖寿司3800円。酢の締め方は祇園店よりやや軽いが、いずれ劣らぬ逸品だ。こちらも昆布のまま頂いても美味しい。(相) |
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満寿形屋 |
鯖寿司で知られるうどん屋。鯖街道の終点に当たる出町桝形商店街入口付近に位置し、元祖鯖寿司を名乗る。うどんに鯖寿司二切れ700円を付ける客が多い。鯖寿司は塩・酢とも浅めで、白板昆布の間に挟んだ山椒の葉がアクセントになっている。(大) |
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いづ重 |
いづうの暖簾分けで、創業百年、祇園石段下には昭和23年に開店した老舗。昆布はいづうの半分ほどの厚さで、同じく外して食べる。塩・酢とも薄く、上品で洗練された味。丸い形は芸術的。店内で鯖寿司や鯖寿司入り盛り合わせを気軽に頂ける。(大) |
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鯖街道花折 |
葵橋の東袂、鯖街道沿いにある有名鯖寿司店。塩が強く、酢は利いているが甘みは少ないのが特徴で、白板昆布がのる。身が厚い鯖を使い、食べ応えがある。店では鯖寿司3切れに小鉢・吸い物のセットが1780円で頂ける。一本4830円。(大) |
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きくもと |
昭和35年に宇治黄檗で創業したきくもとの暖簾を受け継ぐ店で、昭和48年に祇園に出店。鯖寿司5000円は少し薄めの酢昆布のような昆布が巻いてあり、本来は外して頂くのだが、一緒に頂くのがベスト。口当たりの良い、和菓子の如き逸品。(相) |
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伊豫又 |
元和三年、初代が伊予から京に上り、代々伊豫屋又兵衛を襲名、現当主は二十代目という老舗寿司屋。鯖寿司はバランス的にご飯が多く、しっかりと押してある。ご飯も含めて酢がきいており、鯖の脂っこさを抑えている。半分6切れで2000円。(大) |
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本家重兵衛 |
長らく営業していた祇園から最近錦小路室町に移ったが、昔から鯖寿司でも知られている寿司割烹。一般的な京の鯖寿司の中では酢がよくきいているのが特徴で、白板昆布をのせたバッテラ風の鯖寿司。1人前6切れ1890円。(相) |
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いづう |
元明元年(1781)創業の京鯖寿司の代名詞と言える名店。最高の鯖を使い、いづう専用の酢でしっかりと締めてあるが酸っぱくはなく、鯖の旨みを引き出した絶妙のバランスの逸品。巻かれた堅い昆布を外して頂く。1本4410円。(大) |
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