洋食とは、明治時代の日本人が西洋料理を摂り入れる際に、主食のご飯に合う惣菜として、自文化にとって違和感のないものに工夫した、日本独自の食文化である。その後、明治・大正・昭和と百年にわたって、洋食は日本の料理ジャンルの一つとして発達してきた。一九七〇〜八〇年代以後の大衆消費社会の発展によって、ファミリーレストラン、コンビ二、ファーストフードが一般化する一方で、フレンチやイタリアンなどの本場の西洋料理が日常的に普及するに伴ない、洋食は少しレトロな日本の伝統文化になったといえるだろう。「懐かしの洋食屋」と題する所以であるが、洋食は日本人になじみ深い家庭料理(カレーライス、フライ、ハンバーグ)でもあり、じっくりと丁寧に作られた手作りの洋食が今ふたたび見直され、注目されはじめている。
洋食の歴史は東京・銀座からはじまる。現在洋食の定番メニューになっているものを数多く生み出したのが、銀座にある明治二十八年創業の名店「煉瓦亭」だ。
たとえば、洋食の基本である揚げ物。「煉瓦亭」はビーフコートレットを応用したポークカツレツを考案し、これが大当たりして、エビフライ、白身魚のフライ、カキフライなど、次々と揚げ物メニューを生み出した。ポークカツレツに千切りキャベツを添え、ウスターソースで食べるというおなじみのスタイルも「煉瓦亭」がはじめたものだ。ハヤシライスやオムライスも「煉瓦亭」で誕生したといわれている(このオムライスは卵とご飯を混ぜたオムレツタイプのもの)。
大正から昭和にかけて、とんかつ、コロッケ、カレーライス、チキンライス、オムライスなどを出す大衆食堂が全国に誕生し、洋食は庶民の間に急速に広がっていく。そして、デパートの大食堂も、洋食の普及に大きな役割を担った。デパートの大食堂のお子様ランチは、チキンライス、ハンバーグ、エビフライなどの洋食の定番メニューを盛り込み、子供たちを洋食の世界へ誘う夢の一皿だったのだ。
一方、昭和に入ると、とんかつのメッカである東京・上野の「ポンチ軒」が現在のタイプのとんかつを考案し、その後、多くのとんかつ専門店が誕生。洋食の日本化はここに極まったといえる。とんかつ専門店は和食に分類されることも多い。
西洋料理ならざる洋食の条件として第一に挙げるべきは、
「ご飯に合うこと」
これは絶対的条件である。これに準ずる指標として、「ご飯に合うこと」に関連するが、「味噌汁と漬物が付いていること」が挙げられるだろう。味噌汁と漬物が付くということは、当然、箸で食べるということでもある。すべての洋食屋に味噌汁と漬物が付いているわけではないが、雰囲気はわかってもらえると思う。つまり、庶民の洋食屋とは洋食を出す定食屋なのである。
揚げ物(カツ、フライなど)、焼き物(ソテー、ハンバーグなど)、ライス物(オムライス、カレーライスなど)と並び、もう一つ洋食で忘れてはならないものに、煮込み(シチュー)がある。洋食の煮込みの基本はご飯にも合うドミグラスソースで、ビーフシチューとタンシチューが中心メニューだが、ハヤシライスにもなり、ビフカツやハンバーグにもかけられる洋食のソースの王様だ。
京都の洋食の歴史は、東京や大阪に比べると少し地味だ。ここには、和食の本場の京都では、庶民的な町の洋食屋が東京や大阪のように一つの文化としてスポットライトを浴びてこなかったという事情もあるだろう。寺町「ムラセ」、木屋町「とんかつ一番」、下鴨「富永」、祇園「グリルたから船」など、京都の庶民的な洋食の名店人気店はかなり姿を消しているが、京都の庶民とともに歩んできた洋食屋はまだまだ残っており、廉価で美味しいものを今も提供している。
それでは、懐かしさを感じさせる京都の洋食屋を厳選してご紹介しよう。
金平 |
河原町丸太町の交差点近くにある京都を代表する老舗洋食屋さんです。創業は昭和三十二年で、民芸風の建物が特徴です。 |
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キッチン ゴン |
二条城の北にある洋食屋。この店でしか食べられない個性的な料理を出す名店。昭和四十五年に京都に移転するまでは東京の渋谷で洋食屋をやっていたそうだ。 |
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とんかつ一番 |
とんかつ一番は創業昭和二十四年の京都有数の老舗洋食屋でした。木屋町の本店を中心に、かつては支店が何軒かありましたが、現在は昭和三十五年開店の七条店のみが伝統と暖簾を守っています。七条大宮の交差点からすぐのところですが、裏通りの少しわかりにくい場所です。 |
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本町亭 |
創業昭和十二年のカウンターだけの老舗洋食屋。近くには三十三間堂や京都国立博物館がある。 |
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ぱ*らんて |
西大路七条の交差点近くにあります。創業は平成になってからですが、懐かしい感じの洋食を出すこのエリアの名店です。 |
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西洋軒 |
烏丸丸太町の交差点の角、京都御所の斜向かいというロケーションにある老舗洋食屋。 |
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コロナ |
四条河原町の阪急百貨店の裏手、西木屋町の奥まった場所にある老舗洋食屋。創業昭和二十年、戦後の京都洋食史に欠かせない一軒だ。 |
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グリル生研会館 |
下鴨神社を少し下がったところ、糺の森のバス停前にある創業昭和三十三年の老舗洋食屋さん。ゆったりと広くて美しい店内は落ち着いた雰囲気で、年配客が寛ぎながら食事をしています。 |
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